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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9495号 判決 1967年12月23日

原告 マルテール・エレクトロニックス・セールスインコーポレーテッド

右訴訟代理人弁護士 レイモンド・ブッシエル

同 ウオーレン・ナー・シミオール

同 大塚竜司

被告 サンウエーブ工業株式会社管財人 児玉俊二郎

右訴訟代理人弁護士 妹尾晃

同 高橋俊郎

同 長浜毅

同 柳川征道

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一、原告。「被告は原告に対し金三〇、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年一二月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告。主文同旨の判決。

第二原告の請求原因

一、原告は一九五九年アメリカ合衆国カリフォルニア州法に準拠して成立したあらゆる商品の輸出入、販売を目的とする会社である。

二、被告は昭和三九年一二月二四日東京地方裁判所において更生手続開始決定がなされたサンウエーブ工業株式会社(以下被告会社という)の管財人である。

三、原告は昭和三六年三月二日被告会社との間で次のとおり契約を締結した。

(一)  被告会社はその製造にかかる小型テープレコーダー、アール・エイ11型を注文に応じて原告に継続して売渡し輸出する。

(二)  被告会社は原告を右商品の米国内における唯一の輸入および販売先に指定し、原告以外の米国業者に右商品を売渡さない。

四、しかるに被告会社は右独占約定に違反し、昭和三六年三月二日から昭和三九年一二月二四日までの間に次のとおり米国内業者に右商品を売渡した。

(一)  スターライト社に五、〇〇〇個

(二)  インタナショナルプロダクツ社に一、〇〇〇個

(三)  シアーズローバック社に四〇、〇〇〇個

五、右合計四六、〇〇〇個は当然原告が被告会社から買受け、米国内で販売し得たはずであり、したがって原告は被告会社の前記独占約定違反により右販売によって得るべき利益を失ったことになる。本件契約により原告が被告会社から買受けるアール・エイ11型の代金は一個につき一一ドル五〇セント(米価以下同じ)と定められており、これに関税一ドル五八セント、通貨および通関手数料一七セントを加算すると原告の輸入価格は一個につき一三ドル三五セントとなる。そして原告はアール・エイ11型一個を一ドル八五セントの売買費用をかけて一八ドル五〇セントで米国内で販売し得た。よって原告の得べかりし利益は右一個につき三ドル三〇セントである。

六、仮りに被告会社が前記米国内業者と一部契約を締結しなかったとしても、前記数量について売買契約締結のための商談を進行させたから原告はこれをもって被告会社の独占約定違反として右得べかりし利益の賠償を被告に請求し得る。

七、よって原告は被告に対しアール・エイ11型四六、〇〇〇個分の得べかりし利益合計一五一、八〇〇ドル(公定為替換算率一ドル三六〇円の割合により算定すると金五四、六四八、〇〇〇円)のうち金三〇、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和三六年一二月一七日から支払ずみまで同法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁および抗弁

一、請求原因第一ないし第三項の事実はいずれも認める。但し、原告主張の本件契約ではアール・エイ11型のうち「アポレック」の商標を付したもののみを対象にしたのであって同型のものでもいわゆるプライベイトブランドを付したものは対象に含まれない。

二、同第四項の事実中被告会社がアール・エイ11型テープレコーダーをスターライト社に五、〇〇〇個、シアーズ・ローパック社に一九、五〇〇個売渡したことは認める。但し右商品はいずれも「アポレック」の商標をつけたものではなく、右両社それぞれのプライベイトブランドをつけたものであった。インターナショナルプロダクツ社に対しては同社が信用状を開設すれば一個につき一一ドル七五セントで一、〇〇〇個出荷し得る旨被告会社が申入れをしたことはあるが、結局売買契約は成立しなかった。

三、同第五項のうち原告が被告会社から買受けるアール・エイ11型一個の代金が一一ドル五〇セントとする旨の約定が成立したことは認めるがその余の事実は知らない。

四、(一) 原告と被告会社との間の本件契約では次のような計画を含む出荷スケデュールが合意され、右スケデュールを原告が遵守することを条件に原告主張の独占約定が合意されたのである。即ち右独占約定は原告が右出荷スケデュールに違反することを解除条件とするものであった。けだし被告会社が何らの対価もなしに独占販売権を与えるはずはない。

(イ)  原告は第一回注文として六、〇〇〇個分(単価エフ・オー・ビー横浜一一ドル五〇セント)の信用状を開設し、昭和三六年三月一〇日までに被告会社に送達する。

(ロ)  被告会社はこれに対する出荷を内三、〇〇〇個は同年三月三一日までに、残りの三、〇〇〇個は同年四月三〇日までに横浜港で船積してなす。

(ハ)  第二回注文として原告は一四、〇〇〇個分の信用状を開設して被告会社に送達する。

(二) しかるに原告は次のとおり右出荷スケデュールに違反した。

(イ)  第一回注文の六、〇〇〇個分の信用状は同年三月一〇日までに送達されず、同月二一日になって漸く被告会社に到達した。

(ロ)  しかも右信用状の金額は単価一一ドルのものであった。

(ハ)  また右信用状は当然内三、〇〇〇個の出荷期限である同年四月三〇日まで有効なものでなければならないのに原告から送られた信用状は有効期限同年四月一五日限りのものであった。

(ニ)  原告は第二回注文としての一四、〇〇〇個分の信用状を前記出荷スケデュールで定められた同年四月二〇日までに被告会社に送達しなかった。

(三) よって原告主張の独占約定は遅くとも同年四月一〇日には効力を失った。

仮りに独占約定が右のような解除条件付のものでないとしても被告会社は原告に対し遅くとも同年四月二六日頃原告に到達した書面で前記約定違反を理由に本件全契約を解除する旨の意思表示をした

第四被告の抗弁に対する原告の答弁

一、被告主張の出荷スケデュールは原告との間で合意されたものではなくあくまでも被告会社の出荷予定にすぎない。本件独占約定には何らの解除条件も付されていなかった。原告が米国内でアール・エイ11型テープレコーダーの市場開拓を行うことが独占約定の対価というべきである。

二、被告主張の第四項(二)(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)記載の各事実はいずれも認める。但し被告会社は六、〇〇〇個について同年四月一五日までに船積を完了する旨約したものである。

三、同項(三)主張の書面がその頃原告に到達したことは認める。

四、被告は当初スターライト社およびシアーズ・ローバック社に対する「アポレック」の商標を付したアール・エイ11型の売渡しを認めたにもかかわらずこれを撤回したのは自白の撤回であり、異論がある。

第五証拠<省略>。

理由

一、請求原因第一ないし第二項の事実および原告と被告会社間のアール・エイ11型一個の約定売買代金が一一ドル五〇セントであったことは、本件契約の対象となった商品が「アポレック」の商標を付したものに限られるか否かは別として当事者間に争いがない。

二、<証拠省略>を総合すれば、本件契約に際して被告会社は原告と過去において取引をしたことがなく、また原告の資力、販売網についても何ら知識を有しなかつたこと、そこでまず原告と被告会社との間で、原告は当面二〇、〇〇〇個分の注文を内六、〇〇〇個については昭和三六年三月一〇日、残りの一四、〇〇〇個については同年四月一〇日までにそれぞれ信用状を被告会社に送付してなし、これに対して被告会社は同年三月三一日、四月三〇日にそれぞれ三、〇〇〇個、同年五月三一日七、〇〇〇個、六月三〇日に七、五〇〇個を船積出荷する旨合意されたこと、また原告が昭和三六年八月までに前記二〇、〇〇〇個を含めて最低五〇、〇〇〇個を同年五月以降毎月一〇日に最少限各七、五〇〇個分の信用状を開設して買付ることを約したこと、これに対し被告会社が原告主張の独占約定に合意したことが認められ、右認定に反する原告代表者尋問の結果は証人中村久次の証言に対比したやすく措信できず、また、成立に争いない甲第四号証は右証言によれば、原告に独占販売権を与えた旨を明らかにするためのものであることが認められ、また、その記載内容も右認定に反するものではない。

他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、原告の取得した独占販売権に対応する被告会社の利益は約定数量のテープレコーダの売却であり、他に被告会社の利益を保護する手段が講じられていないのであるから、被告会社は原告が約定数量の物品の買付をなすことを前提として原告に独占販売権を与えたのであり、原告のこの約定数量の買付はその独占権を維持するための条件をなしていると解するのほかはない。したがって、原告がその買付を履行しないときは独占販売権は当然これを失うに至るものであるから、原告主張の独占約定は昭和三六年三月一〇日までに、六、〇〇〇個分の信用状を被告会社に送付されることを解除条件とするものである。しかるに、六、〇〇〇個分の信用状が右期限内に被告会社に送付されず、また金額も約定に反していたことは当事者間に争いがないから、右独占約定は同年三月一〇日の経過をもって効力を失ったことになる

三、被告会社が本件契約の成立した昭和三六年三月二日から右独占約定の効力がなくなった同年三月一〇日までの間に右独占約定に違反したことを認めるに足る証拠はない。

四、したがって原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、

<以下省略>。

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